放浪者セレナ制作秘話(システム・バランス担当ver)
第16回ウディコン第四位でした!
遊んでくださった方々、投票してくださった方々、本当にありがとうございました!
特に遊びやすさ部門第一位、熱中度二位は非常に嬉しかったです。
というわけで、放浪者セレナの制作秘話です。
自分はシステムとバランス担当なので、今回はどうやってバランス考えていったかという話。
初期状態
自分がシステム改修を終え、バトルバランスを引き受けた時点で、ウディコンの締切は残り二週間弱。
ステータス種類はウディタ基本システムのデフォルトの状態。
- 攻撃力
- 防御力
- 精神攻
- 精神防御
- 敏捷
- 命中率
- 回避率
- クリティカル率
で、いくつかのステータスに対して訓練が用意されていた形です。訓練名はこの時点でほぼ確定していました。
トレーニング | 上昇ステータス |
---|---|
筋トレ | 攻撃力・防御力+、敏捷- |
ダッシュ | 敏捷・回避率+、攻撃力・精神攻- |
走り込み | HP・精神攻・精神防+、攻撃力- |
瞑想 | SP・精神攻・精神防+、攻撃力・防御力- |
イメトレ | 命中率・回避率・クリティカル率+、HP・防御力- |
育成する楽しさを考えて現状を整理してみた
ソローさんからは「バランスは任せる。その分好きにしていいよ!」と言われていたので、改めて自分の方でバトルバランスの方向性を考えてみました。
やっぱりいくつかのステータスを自分で自由に育てられる以上、プレイヤーが育てたいように育たないと面白くない。とすると、プレイヤーが「俺はこのステータスをあげていきたい」と明確に判断できる必要がある。
そこでまずはステータスの役割を見直してみました。
この時点で「パンチは命中率が高いけど威力が低い」「キックは命中率が低いけど威力が高い」という基本の方針は決まっていました。どちらも攻撃力依存。なので攻撃力はわかりやすく「ダメージがあがる」ので意義はある。一方で、「精神攻」と「精神防御」はまだ位置づけが決まっておらず、成長させるとどういう恩恵が得られるのか決まっていない状態でした。
また、カウントタイムバトルのように素早さがすごく重要な位置づけを持つゲームならともかく、ウディタ基本システムのようなシンプルなターン制バトルの場合、敏捷って価値が見え辛いんですよね。
例えば先手取ってスタン入れるとかなら敏捷も大事なステータスにはなってくるんですが、それはスタン入れる技を覚えているor覚えられることを知っていて、かつ次に戦う敵より自分が早く動けるという確信があってこそ「敏捷あげてえ!」というモチベーションが湧くというもの。
このゲームにスタン技があるかどうか、それがどのぐらいの確率で発生するものなのか、次に戦う敵の敏捷がいくつなのかもわからない状態では、「敏捷あげてえ!」というモチベーションは湧き辛いはず。
そして命中率と回避率ですが、これはどちらもゲーム性に運の要素を持ち込むもの。ただし、命中率は100%に近いところからスタートし、運悪く攻撃が外れないようにしていく指向に対して、回避率は0%に近いところからスタートし、運よく攻撃が外れるようにしていく指向という違いがある。
そう考えると、今回の「徐々にステータスをあげていくゲーム性」においては、命中率は序盤から高い意義を持ちますが、回避率は終盤にならないとあまり意味を持ちません。3%とか5%回避できるようになったところで、戦況にはあまり影響与えられないですからね。かといって影響出せるレベルに強い要素にしてしまうと、「回避あげるだけでノーダメージで勝てる」となってしまいます。もちろんポケモンみたいに必中攻撃とかそういう要素を織り交ぜていけば回避一強は避けられますが、あれこれ色んな要素に手を出すと収拾がつかなくなりそうです。
最後にクリティカル率ですが、これも運要素を持ち込むもの。回避率と同様、序盤はあまり効果を感じられないですが、回避率と違うのは「発生しなくても致命的な問題にはならない」という点。回避をコンセプトに育てる場合は恐らく体力や防御力をほとんどあげないでしょうから、その状態で避けられなかった時はかなりピンチになりますしストレスにもなりそうです。一方で、クリティカルは発生しなかったとしても通常攻撃分のダメージは与えられるので、発動しなかったからといってストレスにはなりにくそうです。
つまり、回避は得られる結果が「0か100か」ですが、クリティカルは「100か200か」といった要素ということ。得られる結果が「0」ではないのでストレスになりにくく、かつ後半になればクリティカルが連続で発生することを期待できる大器晩成的なステータスという位置づけにすることができそうです。
こうして整理した結果、今時点では「プレイヤーが価値を感じられるステータス」と「いまいち価値を感じられないステータス」が混在していると分析しました。
ステータス | 有用性の有無(プレイヤー目線) |
---|---|
攻撃力 | あり(シンプルにダメージあがる) |
防御力 | あり?(シンプルにダメージさがる。でも攻撃力より価値は低い) |
精神攻 | なし(どんな恩恵が得られるのか未決) |
精神防御 | なし(どんな恩恵が得られるのか未決) |
敏捷 | なし(どのぐらいの高さにすればどんな恩恵が得られるかが見え辛い) |
命中率 | あり(攻撃が外れにくくなる。戦闘の安定性に繋がる) |
回避率 | なし(序盤役に立たない。役に立つレベルにするとバランスぶっ壊れる) |
クリティカル率 | あり?(序盤はあまり役に立たないけど、大器晩成的な価値がある) |
つまりこのままいくと、攻撃力・命中率を主体にあげていく、防御とクリティカルはお好みでといった育て方に自然となってしまいそうです。
だったら、有用性を感じにくいステータスを思い切って変えてしまおう、ということで現在のステータス体系になりました。
実現性を考慮して訓練の方向性を決める
変更後のステータスは下記の通り。
- 攻撃力
- 防御力
- 回復力
- 状態耐性
- 敏捷
- 命中率
- 攻撃回数
- クリティカル率
あれ、敏捷残ってるじゃんと思った方、その通りです。
本当はすべてのステータスに強い意味を持たせられたらよりよかったのかもしれないですが、ウディコンの締切まで残り二週間弱では正直難しいなと感じました。また、敏捷という概念をなくしてしまうと、ウディタ基本システムをそのまま使えなくなってしまうという問題もありました。
そこで、価値を感じにくいおまけステータスは価値を感じやすいメインステータスとセットで成長するようにしてしまおう、ということで生まれたのが現在の訓練体系となります。
訓練 | 上昇ステータス |
---|---|
筋トレ | 攻撃力+(メイン)、命中率- |
ダッシュ | 攻撃回数+(メイン)、敏捷+(おまけ) |
走り込み | HP+(メイン)、回復力+(メイン)、状態耐性+(おまけ) |
瞑想 | SP+(メイン)、クリティカル率+(メイン・おまけどちらでも可)、回復力ー |
イメトレ | 命中率+(メイン)、防御力+(メイン・おまけどちらでも可) |
それぞれのメインステータスをあげたくなったら対象となる訓練を選ぶ。ついでにおまけステータスもあがるが、それはどこまで効果あるのか感じにくかったり後半にならないとあまり効果を発揮しなかったりするので、プレイヤーは意識してもしなくてもいい。
これで、少なくともプレイヤーが「この訓練ってやったところでどんな意味があるの?」と思う場面は少なくなったはず、ということで次のStepへ。
自分が実現したいゲーム性を考える
ステータスの位置づけと訓練をまとめ終わったことにより、プレイヤーの育成スタイルを考えられるようになりました。この中で自分が大事にしたかったのは、ピーキーな育成方法、すなわち特化型を許容できるバランスにしたいということ。
<特化型>
- 攻撃力特化
- 攻撃回数特化
- 回復力特化
- クリティカル率特化
- 命中率特化
- 防御力特化
- HP特化
- SP特化
自分が長年遊ばせていただいた思い出のゲーム「ラグナロクオンライン」では、クリティカル特化型とかDEF特化型など、プレイヤー毎に色んな育て方ができました。もちろん強さ的な意味ではある程度最適解はあるのですが、スーパーノービスだったりクリティカルモンクだったり、自分らしい育て方をしてもそれなりに戦える度量の広さが楽しかったなあという思い出があります。
できればそういう育て方の自由度を確保したい、プレイヤー毎に「俺のスタイル」を極めて欲しい。
それが「自分が実現したいゲーム性」だと考えました。
ただし、そのためには、どんなピーキーな育て方をしてもクリアまで辿り着けるゲームバランスが求められます。
特化型スタイルから主人公と敵のステータスを逆算していく
特化型ステータスを許容するということは、ある意味において「特定のステータスを除いたステータスが、初期のままでも攻略が可能」であることを意味します。
例えばせっかく防御力特化で育てたのに、敵に与えられるダメージが「0」とか「1」とかだと、「なんだよ、結局攻撃力あげないと勝てないんじゃん、このゲーム」となってしまいます。
また、せっかく攻撃力特化で育てたのに、ラスボスから与えられるダメージが初期HPより大きい数字であった場合、「なんだよ、結局HPあげないと勝てないんじゃん、このゲーム」となってしまう・・・。
これを避けるために、初期ステータスに対する下限基準を設けました。
- ラスボスの攻撃を2発は何とか耐えられる初期HP・防御力とする
- ラスボスに最低限のダメージは通る初期攻撃力・技威力とする
一方で、特化型にした時に、例えば火力あげまくった時にワンパンマンになってしまったら、「なんだ、HPとか防御力なんてステータスいらないじゃん」ともなってしまいます。特化型にした以上、育ててないステータス面では「きちぃ」と感じられる場面が欲しいところ。
そこで、今度は特化ステータスに対する上限基準を設けました。
- ラスボスは最低でも3回攻撃しないと倒せない最大火力とする(2発耐えられれば倒せる)
また、このゲームは四日毎に試合を行う仕組み上、次の試合までに動ける回数は最大6回です。その6回の中で着実に「俺強くなったわ」と感じられる成長の伸びが必要になります。せっかく攻撃力あげたのに、相手のHP1000に対してダメージが10ぐらいしか増えなかったら何も面白くないですもんね。
という訳で、「成長を感じられる成長値」を決めつつ、その成長値でステータスを極めていった時の最大ステータスから敵のステータスと主人公の初期ステータスを決めていった結果がこちら。
技の想定最大火力を計算し、きちんと上限・下限の基準をクリアしているかどうかを判断しています。また、例えば敏捷のレベル2訓練は、次の試合まで最大6回(訓練パワーアップイベントがきてから最大5回)という行動期間に対して、4回トレーニングを行えばきちんと攻撃回数が1増えるなど、プレイヤーが成長させたい意図を実現できる上昇値を設定しています。
この暫定ステータスをDBに叩き込み、変更したステータスが想定通りの影響を与えるよう基本システムを改造して、あとは実際に自分で触りながら色々微調整して初代バランスを整えていきました。
初代バランスに対してフィードバックをもらう
いくつかの特化スタイルプレイで、それぞれきちんとゲームクリアできることを確認し、ソローさんに確認依頼を投げました。
が、惨敗。
パンチしてるだけ、キックしてるだけを避けるために、ある程度的確に防御することを求めるバランスにしていたんですが、それが結果として下記フィードバックに繋がった形です。
- 爽快感がない、戦闘にストレスを感じる
- 初期命中率が低くて辛い
- スライムの回復量高すぎて攻撃が負ける
- 技のHP消費はリスク管理のために導入して欲しい(もともとソローさんが入れていたが、ステータス計算が複雑化するため除外していた)。今のままだとパンチ強すぎになるか、キックにギャンブル性がなさすぎて最強になってしまう
まあでもこれはある意味正しい形というか、どうしても作者が最初に考えたバランスは最適解寄りで難しくなってしまうのが自然かなとは思います。
FF14のバランス調整で「(初期バランスが)あまりに難しすぎて逆に和やかになった。明日もっかい集まってどうするか考えようという結論になった」という自分の好きな開発秘話があるんですが、プロですらきっとそうなんですよね。
なので、ここから再度調整していこうと気合を入れ直し、バランスの緩和と技のリスク管理見直しを行って、二代目バランスを作っていきました。
ちなみに作中のハードモードはこの初代戦闘バランスをもとにしています。実際には敵の技がもっと強かったので、現在のハードモードよりもより難しい状態ではありましたが。
二代目バランスに対して全特化型プレイおよび万能型プレイを試す
二代目バランス調整を終えて、ソローさんの方からもOKをもらい、自分の方で改めて想定しているプレイスタイルできちんとクリアできるかを検証していきました。
火力ゴリ押しスタイルや攻撃回数をひたすら増やすスタイル、HPあげまくるスタイルや防御力あげまくるスタイル、命中率をあげてキックがあたるようにするキック安定ルート、命中率を捨てて火力を伸ばしお祈りするキック運ゲールートなどなど・・・。
そしてそれぞれのスタイルにおいて、欲しいと思える技が適切なタイミングで閃けるよう、閃き条件の調整や技の威力・消費・リスクの修正などを進めていきました。
あとはモンキーテストじゃないですけども、色んな訓練を適当に実行していく万能型的なプレイをしてもクリアできるかも確認して、無事三代目バランスが完成しました。
装飾品、お薬アイテム追加で最終バランスへ
自分が仕上げたバランスに対して、ソローさんの方で装飾品入手やお薬入手イベントなどを追加してくださった結果、最終バランスはより優しいレベルに仕上がりました。これについてはソローさんから「ぬるくなりすぎかも?」という相談は受けていて、どうするかは最後まで迷いました。
ただ、装飾品や薬の入手イベントをガン無視してプレイする人もいるかもしれないし、またここから装飾品やお薬を考慮しながらバトルバランスを詰めていくには正直時間が足りない。ということで急遽導入したのが、初代バランス(敵ステータスのみ)で遊べるハードモードです。より歯ごたえのあるプレイを楽しみたい人にはそちらを遊んでいただこう、という結論になりました。
Thank You for Playing!!
恐らくゲームバランスについては色んなご意見あるかと思いますが、色んなプレイスタイルを実現するという部分はきちんと叶えられたかなと思います。
皆さんのクリア画像をあちこち見に行っては、この人はこんな風にクリアしてる、こっちの人はこんなステータスに仕上げてる、と色んなプレイスタイルを眺めることができました。いただいた感想からもその自由度を楽しんでくださっていることが感じられたため、色々大変だったけどとにかく頑張ってよかったなと心の底から思いました。
遊んでくださった方々、本当にありがとうございました。
そしてベース部分のゲーム性や素敵なワードセンスのストーリーを構築してくれたソローさんにも感謝。
Thank You for Playing!!
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